新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

改正男女雇用機会均等法〜平成19年4月1日施行〜

弁護士 横井 浩  

平成19年10月17日 掲載

 本法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)は,昭和60年に成立し,平成9年に大幅に改正されましたが,いまだ職場での男女差別やセクシュアルハラスメント(セクハラ)の被害は後を絶たず,近年では男性に対する差別等も新たに問題となっていました。今回の改正は,これらの問題を解決することをねらいとしています。以下,ざっとポイントを紹介します。

1. 性別による差別禁止の範囲の拡大

(1)男女双方に対する差別の禁止
 これまでは女性に対する差別だけが禁止されていたため,例えば男性が看護師に採用されないとか,派遣会社に応募しても派遣先が女性を希望しているとの理由で断られるなどの問題も生じていました。そこで,改正法により男性に対する差別も禁止され,男性も同法に基づく調停等が利用できるようになりました。

(2)禁止される差別の追加・明確化
 これまでは女性に対する募集,採用,配置,昇進,教育訓練,福利厚生,定年,解雇等について差別が禁止されていましたが,改正法ではこれらに加え,降格,職種変更,雇用形態の変更(例えば,正社員からパート等へ),退職勧奨,雇止め(労働契約を更新しないこと)等についても性別による差別が禁止されました。また,同じ役職や部門への配置であっても,男女で業務の配分が異なる取り扱いをすることや,男女で異なる権限を与えることも禁じられました。

(3)間接差別の禁止
 近年,男女別定年制や女性の結婚退職制のような形式的に明らかな差別は減っていますが,採用・登用にあたり,事実上女性が満たしにくい条件を課すという,実質的な差別が問題となっていました。そこで改正法では,性別以外の事由を要件とする措置でも,省令で具体的に定める以下の@〜Bの措置については,業務の性質に照らしてその遂行上特に必要であるとか,事業の運営状況に照らして雇用管理上特に必要である場合等の合理的な理由がある場合でない限り,間接差別として禁止されました(なお,これら以外の措置は,均等法違反ではありませんが,裁判の際に間接差別として違法と判断される可能性はあります)。

@募集・採用に際し,労働者の身長,体重,体力等を要件とすること。
Aコース別雇用管理における総合職の募集・採用にあたり,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること。
B昇進に関して,転勤の経験があることを要件とすること。

2. 妊娠・出産等を理由とする解雇その他の不利益取り扱いの禁止

(1)省令で定める理由による解雇その他の不利益取り扱いの禁止
 これまでは妊娠・出産・産前産後休業を取得したことを理由とする解雇が禁止されていましたが,改正法では,これらに加え,@男女雇用機会均等法の母性健康管理措置を求めたこと,または受けたこと,A労働基準法の母性保護措置を求めたこと,または受けたこと,B妊娠または出産による能率低下または労働不能が生じたこと,等により,解雇,雇止め,減給,賞与などの不利益な算定,退職,契約内容変更の強要,不利益な配置の変更,降格その他不利益な取り扱いをすることが禁止されました。

(2)妊娠中や産後1年以内の解雇の無効
 妊娠中や産後1年以内になされた解雇は,事業主が妊娠・出産・産前産後休業の取得その他の省令で定める理由による解雇ではないことを証明しない限り,原則として無効となります。

3. セクハラ対策

 近年,事業主がセクハラに対する具体的な措置を怠っているケースや,男性がセクハラの被害者となるケースもみられます。このため改正法では,事業主が職場での男女に対するセクハラ対策として,以下の@〜Hの措置をとることが義務づけられました。これらの措置をとらず,是正指導にも応じない場合には,企業名公表の対象となりますし,当該労働者は調停等を申請することができます。この規定は,派遣先の事業主にも適用されます。

@職場におけるセクハラの内容や,職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を明確化し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
A職場においてセクハラを行った者については,厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
B相談窓口をあらかじめ定めること。
C窓口担当者が広く相談に対応し,その内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。
D相談の申し出があった場合,事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
Eセクハラの事実が確認できた場合は,行為者と被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うこと
F再発防止に向けた措置をとること。
G相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置をとり,その旨を周知すること。
Hセクハラの相談をしたことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め,これを周知・啓発すること。

4. 母性健康管理措置

 事業主は,妊産婦が保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保し,妊産婦が保健指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするための措置(時差通勤,休憩回数の増加,勤務時間の短縮,休業等)をとる義務があります。このような措置をとらず,是正指導にも応じない場合には,企業名公表の対象になるとともに,紛争が生じた場合,調停等を申請することができます。

5. ポジティブ・アクション(男女間の格差解消のための積極的取り組み)の推進

 これまでも,事業主が女性管理職を増やすために,研修や教育機会への女性の参加を奨励する等のポジティブ・アクションに取り組む際には,国が相談などの援助を実施していました。これに加え,改正法では,ポジティブ・アクションに取り組む事業主が,その実施状況を外部に公開するような場合にも,国から相談等の援助を受けられるようになります。

6. 過料の創設

 厚生労働大臣(都道府県労働局長)が事業主に対し,男女均等の取り扱い等均等法に関する事項について報告を求めたにもかかわらず,事業主が報告をしなかったり,虚偽の報告を行ったりした場合には,20万円以下の過料(行政罰)に処せられます。

以上の改正により,職場での男女平等が一層進むことが期待されます。

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