新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

労働契約法〜平成20年3月1日施行〜

弁護士 横井 浩 

平成20年07月08日 掲載

 労働者と使用者の関係を規律する法律としては労働基準法が著名ですが,本法は,社会一般の労働関係(国家公務員や地方公務員,使用者が同居の親族のみを使用する場合等は除く)を安定させるため,労働契約に関する基本的ルールを規定したものです。以下概要をみていきましょう。

1. 定義

 労働者とは,名目を問わず使用者の指揮命令を受けて労働し,賃金を支払われる者をいい,使用者とは,その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいいます。

2. 労働契約の締結について

 労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,双方が合意することによって成立します。労働契約の締結は,労使双方が対等の立場でなした合意に基づき,就業の実態に応じて,均衡を考慮しながらなされねばなりません。また,仕事と生活の調和にも配慮されねばなりません。これらは,後に述べる契約の変更の場面でも同様です。
 使用者は,労働条件や契約内容について,労働者の理解を深めるよう努めなければならず,双方共,労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む)について,できる限り書面によって確認すべきものとされています。

3. 労働契約の内容について

 労働契約を締結するにあたり,使用者が労働者に対し,合理的な労働条件を定めた就業規則を周知させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定めた労働条件に従います。ただし,労使が労働契約で就業規則の内容と異なる労働条件を合意した場合,その部分は,就業規則の基準に満たない場合を除いて労働契約が優先します。就業規則の基準に満たない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効となり,就業規則で定める基準が適用されます。
 使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しながら労働できるよう,必要な配慮をしなければなりません。

4. 労働条件の変更について

 就業規則は,労働基準法の定めに従って変更することができますが,労働契約の内容である労働条件は,労使の合意によって変更することができます。これは裏を返せば,使用者は原則として,労働者との合意なしに就業規則を変更して,労働条件を一方的に労働者の不利益に変更することはできないことを意味します。例外的に,使用者が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合において,@変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,A就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は当該変更後の就業規則に従います。ただし,労働契約の際に,労使が就業規則を変更しても労働条件は変更されないものとして合意していた部分があれば,それが就業規則で定める基準に達せず無効となる場合を除き,労働契約が優先します。

5. 権利濫用について

 労使共に,ひとたび契約を締結すれば,これを遵守し,信義に従って誠実に権利を行使し義務を履行しなければならず,たとえ権利の行使でも濫用は許されません。
 出向命令は,その必要性や対象となる労働者の選定が不当かどうか等の事情に照らして,権利濫用と認められる場合には無効となります。
 懲戒は,対象となる労働者の行為の性質,態様やその他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,権利濫用として無効となります。
 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,権利濫用として無効となります。

6. 期間の定めのある労働契約について

 期間の定めのある労働契約においては,使用者はやむを得ない事由がない限り,期間満了まで労働者を解雇できません。また,使用者は,その契約により労働者を使用する目的に照らして,期間を必要以上に短く定めることにより,その労働契約を反復して更新することにならないよう配慮しなければなりません。


 以上のように,本法では,労使の対等化や,個々の労働関係の安定化等の実現をめざし,種々の定めが設けられていますが,労働基準法とは異なり,強制力や罰則はなく,それらは今後の法改正等に委ねられます。(平成20年7月)

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