新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

犯罪被害者が本格的に刑事裁判に参加できるようになります

弁護士 田邊 正紀

平成20年11月28日 掲載

 犯罪被害者の権利については、平成12年にいわゆる犯罪被害者保護法が成立し、被害者も一定程度刑事裁判に参加できることとなっていました(当時の情報はこちら)。しかし、昨今、犯罪被害者等の権利利益の保護の必要性の認識の高まりに対応して、従前の制度を大幅に拡充することとなりました。主要な改正点を見てみましょう。

1.

 殺人、傷害など故意に身体を傷つける犯罪や強制わいせつなど性犯罪、交通事故など一定の事件の犯罪被害者の方は、「被害者参加人」として、刑事裁判に参加できるようになります。
 これまでは、犯罪被害者の方が、裁判所に申し出をしても、優先的に傍聴席を割り当ててもらえたり、被害感情や処罰感情を意見陳述という形で表明することができるだけでした。
 今回の改正で、犯罪被害者の方は、検察官に申し出て、裁判所の許可を受ければ、検察官の隣の席(予定)に座って、情状証人や被告人に対し質問をしたり、求刑に関する意見を述べたりすることができるようになります。

2.

 故意に身体を傷つける犯罪や性犯罪など(交通事故は含まれません)一定の事件の犯罪被害者の方は、刑事裁判の記録をそのまま利用して、損害賠償の裁判(損害賠償命令)を受けることができるようになります。
 これまでは、損害賠償請求を行うには、原則として刑事裁判とは別に民事裁判を起こさなければならず、刑事裁判の判決前に加害者と被害者の間で示談が成立した場合に限って、裁判所に申し立てることにより、加害者が支払いを怠った場合に強制的に取り立てることのできる強制執行力を与えてもらうことができるのみでした。
 今回の改正で、犯罪被害者の方は、わざわざ刑事裁判とは別に損害賠償を求める民事訴訟を起こさなくても、刑事裁判の審理が終わるまでの間に、刑事裁判がおこなわれている裁判所に申し立てをすることにより、刑事裁判の有罪判決後、直ちに刑事裁判の記録を利用して損害賠償の裁判を受けることが可能となります。
 交通事故の場合にこの制度を使うことができないのは、民事裁判では過失割合が問題となることが多く、刑事裁判の資料をそのまま利用することが、不公平になる場合があることが一つの理由です。
 なお、当事者は、この損害賠償命令制度によって裁判を受けることに異議がある場合には、異議申立を行うことができ、この場合には通常の民事裁判へ移行することとなります。

3. 被害者国選弁護制度

 犯罪被害者の方も、一定の資力要件を満たす場合には、国の費用で弁護人を依頼することができるようになります。
 これまでは、被告人には国の費用で弁護士を付ける国選弁護制度がありましたが、犯罪被害者にはこのような制度はありませんでした。
 今回の改正で、被告人が国選弁護を受けられることとのバランスを考慮して、資力のない犯罪被害者の方も弁護士のサポートを受けながら手続きに参加できるようになります。
 被害者国選弁護を利用したい場合には、日本司法支援センター(法テラス)へ申し込むこととなります。

4. 犯罪被害者等の情報の保護

 性犯罪などの被害者の名前は、公開の法廷で明らかにしないこととなります。
 従前は、性犯罪の被害者の方は、被告人を告訴することにより、公開の法廷で個人を特定できる形で性犯罪被害の内容を明らかにされてしまうことが、告訴を躊躇させる一つの原因となっていました。
 今回の改正で、これまでも行われてきた証言をする際の遮蔽措置に加えて、性犯罪被害者の方の名前も公開されなくなったことにより、性犯罪の被害者の加害者を告訴する際の心理的負担がさらに軽減されることとなります。

 犯罪の被害者にはならないことが一番ですが、不幸にも犯罪にあってしまった場合でも、犯罪被害者に与えられた権利を十分に活用して、少しでも納得のいく解決を目指しましょう。

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