新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

面接交渉の判断基準・執行方法に関する判例について

弁護士 犬飼 尚子

平成21年07月02日 掲載

 子供の親権又は監護権を有しない親が、子供に会って遊んだり、手紙をやりとりするなどの面会・交流をすることを「面接交渉」といいます。
 平成19年6月7日、大阪高等裁判所において、子供との面接交渉を定めた調停に基づく強制執行の申立が認容されました。この決定は、面接交渉を定めた文言にこだわらずに強制執行を認めたもので、今後の面接交渉の定め方に影響を及ぼすと思われます。
 そこで、以下、面接交渉の法的根拠からその実現方法、面接交渉を定める場合の注意点を紹介します。

1 法的根拠について

 実は、面接交渉をする権利について、直接規定した条文はありません。   
 しかし、児童の権利に関する条約第9条3項には「児童の最善の利益に反する方法を除く場合のほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と面接交渉の重要性を定めており、日本においても、民法766条に規定される「監護について必要な事項」「監護について相当な処分」に関するもので家事審判法事項に該当するとして、家庭裁判所が必要に応じて面接交渉の方法を定める取扱となっています。   
 したがって、法的性質自体には様々な考え方がありますが、現在では、面接交渉をする権利が法的保護に値することは認められています。

 では、夫婦が婚姻してはいるが別居している段階、つまり、夫婦が未だ共同親権を有している場合でも、面接交渉をする権利は認められるのでしょうか。上記のとおり、面接交渉の根拠とされる民法766条は、夫婦の離婚に関して生じる事項を定めた規定であるため、離婚をしていない夫婦の一方の親が、面接交渉を求めることができるのか、という点が問題です。
 しかし、判例(最高裁判所平成12年5月1日)は、@婚姻中は父母はそれぞれ共同親権を有しており、その親権に基づき子の監護及び教育をする権利を有しているところ、面接交渉は、その子の監護の一内容である、A民法766条を類推適用するのが相当である、として、離婚をしていない夫婦においても、面接交渉を求めることができることを認めました。
 したがって、夫婦が婚姻中であるか離婚後であるかに関わらず、面接交渉をする権利は認められます。

  
2 判断基準

 1に述べたとおり、面接交渉をする権利は法的保護に値する権利であるため、原則として広く認められます。
では、面接交渉が制限されるのは、どのような場合でしょうか。   
 面接交渉は、子供の監護に関する権利として認められるものなので、抽象的には、子供の福祉に反する場合には、認められないこととなります。
 具体例としては、父親が母親に暴力を振ったことに基づいて保護命令が出されている場合(東京家裁平成14年5月21日)、父の暴力が離婚原因となって母がPTSDと診断されている場合(横浜家裁平成14年1月16日)において、父から母への面接交渉の請求は認められませんでした。これらの判例は、面接交渉をめぐって父親と母親が関わることによって母親に大きな心理的負担をかける結果、母親と子供の安定した生活を害し、子供の福祉に反するおそれが大きいことを理由としています。
 一方で、両親間の対立や反目が激しいことのみを理由に面接交渉を許さないのは相当ではなく、子の福祉に合致した面接の可能性を探る努力を怠ってはならないとして、面接交渉を認めなかった原審の判断を取り消した判例もあります(名古屋高裁平成9年1月29日)。   
上記の判例によれば、面接を認めることによって子供の福祉に反する事情が具体的に存在し、かつ、その蓋然性が高いといえる場合には、面接交渉が認められない傾向にあるといえます。

3 面接交渉を実現するための手続

 子供の心情を考えれば、父母の協議に基づいて面接交渉が行われることが、最も望ましい方法です。   
 しかし、面接交渉を協議するまでの経緯や感情的な問題などにより、父母の協議が調わないことも多いと思います。
 その場合には、一方の親は家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることができ、調停を申し立てた場合でも調停で解決ができなければ審判に移行して判断されることとなります。
 では、調停や審判で面接交渉を認められたにもかかわらず、相手方が面接交渉を行わない場合は、どのような手続をとることができるでしょうか。
 第一段階としては、家庭裁判所に対して、調停や審判で認められた内容の履行を勧告するよう求めることができます。
 しかし、家庭裁判所の履行勧告には、強制力がなく、罰則もないため、これによって履行がなされることはあまり期待できません。
 そのような場合は、強制執行手続により、実現を図ります。
 もっとも、執行機関が子供の意思に反して強制的に子供を連れてくる等という直接的な方法は、子供の福祉に反することとなるため、行うことができません。
 そのため、面接交渉を実現する場合の強制執行の方法は、相手方が面接交渉を履行しない場合に相手方に一定の賠償金を支払わせることによって心理的に履行を強制する方法(間接強制)を取ることとなります。

4 面接交渉を定める場合の注意点

 強制執行をするに当たっては、強制執行によって実現されるべき権利の存在と具体的内容が明らかでなければなりません。
 そのため、面接交渉を定める場合においても、強制執行を意識した定め方にする必要があります。
 これまでは、「面接させる」ではなく、「面接することを認める」という文言による場合には、面接交渉ができることを「確認」しただけであり、面接交渉を「実現することを求める」権利が定められたものではないため、強制執行を行うことができない、と判断される傾向がありました。
 しかし、頭書に掲げた大阪高裁平成19年6月7日の決定では、「面接することを認める」との文言によるものでも、面接の頻度、時間、面接日、面接方法が具体的かつ明確に定められていれば、調停条項全体として、強制執行によって実現されるべき権利の具体的内容が明らかであるとして、強制執行ができると判断されました。
 上記判例によって示された傾向によれば、必ずしも文言にこだわる必要はないとはいえますが、強制執行を見据え、「(妻が夫に)面接をさせる」という文言を使用し、面接の回数、日時、方法等について具体的な合意を定めるよう注意する必要があります。

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