新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

外国人との離婚

弁護士 田邊正紀 
(ニューヨーク州弁護士)

平成21年09月10日 掲載

 最近、国際結婚の増加に伴い、国際離婚も増加しています。そこで、今回は、外国人との離婚手続について考えてみたいと思います。

■1 相手方が日本にいる場合

 相手方である外国人が、日本にいる場合には、日本の裁判所で日本の法律を使って離婚することができます。
 すなわち相手方が外国人であっても、区役所や市役所に届け出ることによって、協議離婚することもできますし、日本の裁判所に離婚調停を申し立てたり、離婚裁判を提起したりすることができます。
 但し、中国、韓国、フィリピンなどは協議離婚を認めていますが、アメリカなど多くの国では協議離婚を認めていませんので、この場合には、家庭裁判所における調停離婚の手続を選択しておかなければ、相手方の国では離婚が有効に成立しないことになってしまいます。手続を進める前にご自分で調査するか専門家に相談することをお勧めします。

■2 相手方が外国にいる場合の離婚手続

 相手方が外国にいる場合には、協議離婚が可能であれば問題ありませんが、話し合いがまとまらずに、調停や裁判を起こさなければならない場合には、日本の家庭裁判所に申し立てをできるかどうか検討する必要があります。
 日本の裁判所に裁判を提起できるかどうかを「国際裁判管轄」といいますが、これについては法律はなく、すべて判例で決まっています。
 判例は、@被告(相手方)の住所が日本にある場合、A原告(離婚を求める側)が遺棄された場合ないし被告が行方不明の場合、B被告の住所地国に離婚訴訟を提起するのが困難な場合には、日本の裁判所に訴えを提起できるとしています(最判昭和39年3月25日・最判平成8年6月24日)。
 具体的には、@被告が出産のために一時帰国しているが、住所自体は日本にある場合、A被告が家を飛び出して勝手に帰国してしまった場合、B被告が住み始めた国の裁判所が、訴え提起のための居住期間等の制限を設けていて、住み始めて間もない人の離婚訴訟の提起を認めていない場合(米国ニューヨーク州等)、原告が外国で同居中に配偶者から暴力を受けており、逃げかえってきた場合などには、日本で離婚訴訟を提起することができることになります。
 また、日本の裁判所に離婚訴訟を提起できる場合には、財産分与、慰謝料、親権者指定など離婚に付随する問題についても当然に合わせて請求することができます。
 なお、原則として、離婚訴訟を提起するために、調停手続を経ておかなければなりませんが、相手方が外国にいる場合には、出頭の可能性が低いため、調停手続を経ずに離婚訴訟を提起することも認められます。

■3 親権・養育費・面接交渉

 子の福祉の観点から、子の住所地の裁判所にしか訴訟を提起できないとしている国が多く、日本も例外ではありません。
 よって、子供さんが日本に居住している場合には、親権者変更、面接交渉請求、養育費支払請求等の調停、審判を日本の家庭裁判所に申し立てることができます。
 逆に言えば、子供さんが外国に居住している場合には、親権者変更、面接交渉請求、養育費変更請求等の裁判手続は、子供さんが居住している国の裁判所に申し立てる必要があるということになります。
 なお、日本は「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」を批准していませんので、外国から日本へ連れ帰った子供さんに関して、外国で引き渡し判決が出ても、子供さんが強制的に判決を出した国に連れて行かれることはありません。

■4 不貞行為に基づく慰謝料請求訴訟

 外国にいる配偶者が、外国で浮気をした場合に、外国にいる浮気相手を日本の裁判所で訴えることができるでしょうか。
 浮気相手のみを被告として、日本の裁判所に慰謝料請求訴訟を提起することは困難だと思われます。これは、判例が、外国で行われた不法行為については、日本では結果が生じたにすぎない場合や加害行為者が日本で結果が発生することを予測できない場合には、日本の裁判所に訴訟を提起することを認めていないためです。
 しかしながら、外国にいる配偶者に対する離婚訴訟と合わせて浮気相手を共同被告とする慰謝料請求訴訟を提起する場合には、日本の家庭裁判所に訴訟を提起することが可能であると考えられます。最高裁判所の判例(平成13年6月8日)も、両請求間に密接な関係が認められる場合には、関連請求についても日本に国際裁判管轄を認めるのが相当だとしています。


 以上のように、国際裁判管轄については判例により結論が決まります。離婚訴訟の国際裁判管轄については、平成15年に人事訴訟法が改正され、原告の住所地にも無条件で裁判管轄が認められることとなったことから、今後も判例が変更されていく可能性が十分あります。もしあなたが、相手が外国にいるから日本での裁判は無理だと考えたり、安易に日本の裁判所に訴訟提起できると考えていても、もしかしたらその判断は間違っているかもしれません。きちんと専門家に相談してから手続を進めましょう。

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