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ロンドン家族法学会報告

弁護士 田邊 正紀

2016年7月

夕闇のビッグベン

夕闇のビッグベン (画像を再度クリックすると元のサイズに戻ります)

夕闇のビッグベン(服部弁護士撮影)
 2016年7月6日〜8日の3日間にわたり、ロンドンで開催された家族法学会議“Culture, Dispute Resolution and the Modernised Family”に参加しましたので、その内容を報告します。 この会議は、2年に一度開催されていますが、今年が3度目という新しい会議です。 この手の国際会議といえば、渉外取引に関するものが多い中、世界各国の家事事件、渉外家事事件、子の連れ去りに関するハーグ事件を取り扱う学者や実務家が一堂に会するという意味では、 新たな分野での国際的連携の試みといえます。今回は、愛知県弁護士会の有志8名で会議に参加しました。

 会議は、全体会議のほか分科会に分かれたものも含め150近いテーマが発表されましたので、とても全部は書ききれませんが、日本とは異なる部分について少しふれておきたいと思います。
 現在、大多数の国は離婚後も共同親権を認めており、このような法制の下では、未成年の子が転居する場合に同居していない親の同意が必要となります(この転居のことをRelocationと呼んでいます)。 同居していない親が転居に同意しない場合には、裁判所がこれを許可するかどうか審理することになりますが、子と同居している親の転居の必要性と子と同居していない親との交流をどのようにバランスをとるかは、試行錯誤しているようです。 日本も近い将来、離婚後の共同親権制度を導入した場合には、このような問題に直面することとなります。
家族法会議の様子

家族法会議の様子 (画像を再度クリックすると元のサイズに戻ります)

家族法会議の様子
 また、欧米諸国では、同性婚に対して婚姻とほぼ同じ権利を認めるcivil partnership制度が広く認められています。現在では、さらに一歩進んで,何等の届け出をしないいわゆる内縁関係(cohabitant)に対して、どのような法的保護が与えられるべきかが議論されています。 日本では内縁関係の法的保護は古くて新しい問題ですが、フランスやスウェーデンなどでは、法律婚よりも事実婚を選択する割合の方が多い状態ですので、内縁関係の法的保護は重大な問題のようです。
 日本は世界一といってもよいほど離婚が簡単な国です。にもかかわらず、離婚後の子の利益は国際標準と比較してあまりに低い扱いであることをこの会議を通じて実感しました。 日本の実務を子の福祉という観点から世界標準に近づけているため私たち実務家が努力していかなければいけないと改めて実感しました。

 今回家族法会議のためにロンドンを訪問した機会をとらえて、家族法を扱う法律事務所、子の連れ去りを扱うNPO、ロンドンの家庭裁判所を訪問しました。

International Family Law Group LLP訪問

International Family Law Group LLP訪問 (画像を再度クリックすると元のサイズに戻ります)

International Family Law Group LLP訪問
 7月7日午前には、International Family Law Group LLPを訪問しました。同事務所は、国際家族法を専門に扱う法律事務所で、16名の専門家が所属する2007年に設立された新進気鋭の事務所です。 誰の紹介もなく飛び込みのメールで訪問要請をしましたが、朝食まで用意していただき、和やかな雰囲気で懇談をすることができました。 話題は主に日本とイギリスにおける離婚や離婚後の子の福祉に対する考え方の違いについてでしたが、日本の離婚後の養育費の支払い率や父親との面会交流率の低さは、イギリス人弁護士を大いに驚かせたようです。 また、イギリスでは離婚するためには必ず裁判を経る必要がありますが、約10年前に日本の協議離婚がイギリスでも承認されることとなる判例変更があり、現在は、イギリス人の方は日本で協議離婚を選択することが可能になったとのことでした。

Reunite訪問

Reunite訪問 (画像を再度クリックすると元のサイズに戻ります)

Reunite訪問
 7月7日午後には、イギリスサッカーのプレミアリーグで優勝し日本の岡崎選手が所属していることでも有名なレスターにあるリユナイト(Reunite International Child Abduction Centre)というNPOを訪問しました。 同団体は、国際的な子の連れ去りを専門とする非政府組織であり、電話相談と調停を主な業務としています。 電話相談は、無料で、24時間、何度でも相談できるというもので、一度電話をすると、リユナイト側から定期的に状況確認の電話を行うという手厚いものです。 私たちは、実際の電話相談の会話を聞かせていただく機会に恵まれましたが、リユナイトでは「自分から電話を切らない」というポリシーで相談を行っているということで、同じような質問にも辛抱強く丁寧に回答しているのが印象的でした。

ロンドン中央家庭裁判所

ロンドン中央家庭裁判所 
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ロンドン中央家庭裁判所
(残念ながら内部は撮影禁止)
 7月8日お昼には、ロンドン中央家庭裁判所(Central Family Court)を訪問しました。 前日まで私たちの訪問について曖昧な回答であったため、充実した訪問ができるか心配でしたが、実際に行ってみるととても手厚い受け入れ態勢が準備されていました。 到着すると、まずは裁判所長の部屋に通され、簡単な挨拶と家庭裁判所の仕組みに関する簡単な質疑を行いました。 質疑の後、裁判所長が「少しメモをするので時間をください」と言われ、5分ほど沈黙の時間が流れました。 待っている間、「もしかして、私たちはあまり歓迎されていないのではないか」という疑問が頭をよぎりましたが、「さあ行こうか」と言われてついていくと、いましたがメモした紙を読み上げて、判決が言い渡されました。 詳しい内容は、記載できませんが、裁判所の命令にもかかわらず証拠を提出しなかったということで、法廷侮辱罪により禁固28日の刑に処する判決でした。 日本でもこのような判決が言い渡されることがあれば、財産分与における資産隠し等が激減するのになあという羨ましい思いとなりました。 昼食は、約10名の裁判官と共にフィッシュアンドチップスをいただき、公私にわたるお話を伺いました。 午後からもたっぷり2時間法廷傍聴をさせていただきました。 イギリスでは、家庭裁判所の手続は非公開ということでしたが、私たちは、裁判官の隣に座らせていただき、「日本の弁護士が傍聴を希望している」という紹介をされ、当事者の許可を得たうえで、傍聴させていただきました。 印象的だったのは、子の監護に関する事件では、国(養護施設)の代理人、父親の代理人、母親の代理人、子の代理人のすべての弁護士が、3日間にわたる手続に全員参加し、子の利益という共通目標に向かって非常に協力的に手続が進められていたことです。 日本では、当事者の代理人はどうしても敵対的関係となり、全代理人が協力的に集中的に手続を行うということは稀であり、「とにかく子の利益が最優先である」という考え方の浸透度の差を感じました。

 今回の会議や各機関の訪問を通じ、日本の家族法に関する議論は、世界標準から一歩も二歩も遅れているのではないかとの思いが一層強くなり、日本人弁護士も、各国の実務家との議論や連携を通じ、いま世界で何が議論されているかにもっと目を向けるべきことを実感しました。 私も、国際離婚事件やハーグ条約案件を扱う中で、国際的視点をもっともっと業務に活用していきたいと思います。


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