新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

担保・執行法改正〜平成16年4月1日施行〜

弁護士田邊正紀 

今回の改正は多岐にわたっていますが,その中心は何と言っても不動産担保制度と不動産執行制度です。これらを概観した後,その他の改正点を見てみましょう。


1.担保不動産収益執行手続

不動産担保権の実行方法として,これまで通りの競売手続のほかに,管理人を選任して所有者等に代わって不動産の管理を行い賃料などの収入から配当を受ける執行方法が認められることとなりました。これまで通り不動産競売申立後の物上代位に基づく賃料等の差押え行うことが出来ますが,担保不動産収益執行が申立てられた時はこちらが優先します。抵当権者としては,費用や回収可能性などを考慮して手続を選択することとなります。


2.抵当権消滅請求(旧滌除制度)

抵当不動産の所有権を取得した第三者は,抵当不動産の評価額を抵当権者に提供して抵当権を消滅させることが出来ます(この点は請求権者が所有者に限定された以外は滌除制度と同様です)。抵当権者はこの請求を受けた場合には,2ヶ月以内に競売申立をしなければ評価額を承諾したものとみなされます(滌除制度では1ヶ月以内に評価額の1割増の担保提供を提供して増加競売を申し出なければなりませんでした)。競売手続により売却がなされれば配当を受領して抵当権は消滅します(滌除制度では評価額の1割以上で売却される必要がありました)。競売手続が買受人不在等により取り消された場合には,評価額を承諾したものとみなされ,評価額を受領して抵当権が消滅します。抵当権者に対する不意打ちを少なくする形での改正がなされたことになります。


3.一括競売制度の拡張

抵当土地上に抵当権設定者(多くの場合土地の所有者)が,建物を建てた場合のみならず,第三者が建物を建てた場合にも,抵当権で担保された債権の支払いがなされなかった時には,抵当権の設定されている土地のみならず後から建てられた地上建物も一括して競売できることとなりました。競落後の建物の取壊しを不用とし社会的損失を防止し,建物所有者にも建物売却代金を得る機会を与え,抵当権者にも取壊し予定建物の存在による土地の減価を防ぐというすべての当事者にメリットのある制度となりました。


4.明渡猶予制度(短期賃貸借保護制度の廃止)

抵当権の登記後になされた賃貸借契約は,その期間にかかわらず(例え2年以下であっても),抵当権者及び買受人に対抗できず,買受人の同意がない限り明け渡しを行わなければならなくなりました。これに替わり全賃借人に6ヶ月間の明渡し猶予期間が与えられることとなりました。正当な賃貸人はこの期間に新しい所有者と新たな賃貸借契約について交渉することになりますし,濫用的な賃貸人は6ヵ月後には無条件に明渡しを行わなければならなくなりました。


5.全抵当権者の同意による賃貸借保護制度

抵当権の登記後になされた賃貸借契約であっても,これよりも先行する抵当権者全員の同意を得て登記を行った時には,競売による買受人にも賃貸借契約の効力を主張できることとしました。有益な賃貸借契約を競売により消滅させないための制度といえます。


6.売却のための保全処分の要件の緩和

不動産の価値を減少する行為またはそのおそれのある行為があれば,それが著しくなくとも保全処分が出来ることとなりました。また,占有者を特定することが困難な場合には,占有者を特定しなくても保全処分が出来ることとなりました。さらに,引渡命令の際の占有者不明でも,占有移転禁止の仮処分を得る際に占有者と認定された者に対し引き渡し命令を受ければ執行できることとなりました。これら一連の改正で,占有関係を不明にして執行を妨害する方法に対して有効に対処できることとなりました。


7.競売を促進する制度

不動産競売手続き中の物件について,物件明細書・現況調査報告書・評価書をインターネット通じて公開することとしました。これにより裁判所に赴くことなく,いつでも好きな時間に,待たされることなく,これらの書類を閲覧することが可能となりました。また,不動産競売手続き中の物件について内覧が出来ることとなりました。これら制度改革により,多くの人が入札に参加することが期待されています。


その他の改正点

その1 雇用関係によって生じた債権について,期間の限定なく先取特権が認められることとなりました。
その2 指名債権を質に取る場合でも債権証書の交付が不要となりました。
その3 根抵当権者はいつでも担保すべき元本の確定請求が出来ることとなりました。
その4 扶養義務等に関する将来債権に基づいて将来の給料等を差押えることが可能となりました(詳しくは「離婚訴訟が変わる」参照)
その5 間接強制(不履行に対し金銭支払いを命じることにより履行を促す制度)を利用できる範囲が広がりました。
その6 強制執行を受けるべき債権者の財産の所在が不明な場合に執行裁判所による財産開示手続を行うことが出来ることとなりました。
その7 債権者が対象の動産を占有していなくても,動産売買の先取特権に基づいて,動産競売の申立が出来,執行官が対象動産を捜索できることになりました。

今回の改正は,改正箇所も多く抜本的なものも多く含まれています。これまで出来なかったことが数多く出来るようになりましたので,以前弁護士から無理だといわれた方も再度相談してみてはいかがでしょう。

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