新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

改正民法〜平成17年4月1日施行〜

弁護士 新谷光広  

平成18年04月21日 掲載

 近時,最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会の法曹三者がいわゆる「裁判員制度」について広報を行っており,皆さんも街角のポスターや新聞・ニュースなどでこの言葉を見聞きされたことがあるかと思います。この制度について,ざっと概要を見てみましょう。

1. 裁判員制度とは?

 裁判員制度とは,国民が刑事事件の裁判に裁判員として参加し,被告人が有罪か無罪か,有罪だとすればどのくらいの刑にするのかを裁判官と一緒に決める制度です。イメージとしては,例えばアメリカ映画などで,裁判のシーンで陪審員が評決を行っている様子が出てきますが,あれと同じように,国民が裁判に参加するものです。なぜ国民に参加してもらうのかというと,それは法律の専門家ではない国民の一般的な感覚を刑事裁判の内容に反映することによって,国民の司法に対する理解と信頼をいっそう深めてもらうためです。

2. いつから始まるのか?

 裁判員制度は,平成16年5月28日に本法律が公布され,平成21年5月までに実施されることになりました。

3. どのような事件に参加するのか?

 すべての刑事裁判に参加するわけではありません。人を殺した事件や,強盗により人にけがをさせたり死なせたりした事件,人にけがをさせて死なせた事件,現に人がいる建物等に放火した事件,危険な運転により人を死なせた事件などの重大な事件が対象となります。平成15年でいえば,対象事件は約3000件ですが,近年は増加傾向にあるといえます。

4. 裁判員はどのように選ばれるのか?

 まず,20歳以上の選挙権がある人の中から,翌年の裁判員候補者がくじで選ばれ,裁判所ごとに候補者名簿が作成されます。そして,その名簿の中から,更にくじで事件ごとに候補者が選ばれ,その人達には裁判所に来てもらう日時などが連絡されます。その後,裁判長が,その人に下記の除外事由がないかどうかや,辞退を希望する人についてはその理由などを調査・確認し,これらが認められた人は除外されます。こうして除外されなかった候補者の中から,裁判員が選ばれます。

5. 裁判員の除外事由は何か?

 これは,要するに「裁判員になれない理由」のことですが,原則として,衆議院議員の選挙権を有する人,すなわち20歳以上の人であれば誰でもなれます。ただし,例えば成年被後見人などであって国家公務員になれない人,義務教育を終了していない人,禁錮以上の刑に処せられた人,心身の故障のため裁判員の職務を遂行するのに著しく支障のある人,国会議員,国務大臣,司法関係者,大学の法律学の(助)教授,知事や市町村長,自衛官,逮捕または勾留中の人,その事件の被告人や被害者及びその親族,その他裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた人などはなることができません。

6. 裁判員は辞退できるのか?

 原則としてできません。ただし,以下のような事情があって,かつその申し出を裁判所が認めた場合には辞退できます。
(1)70歳以上の人,(2)会期中の地方公共団体の議会の議員,(3)学生または生徒,(4)過去5年以内に裁判員や検察審査員などを務めたことがある人,(5)過去1年以内に裁判員候補者として裁判所に行ったことがある人,(6)やむを得ない理由があって裁判所へ行けなかったり,裁判員の職務ができない人など(たとえば重いけがや病気の人,同居の親族の介護や養育をしなければならない人,事業に著しい損害が生じるおそれがある人,父母の葬式がある人など)です。

7. 裁判員は何をするのか?

 原則として,裁判官3名に対し,裁判員は6名で構成します。ただし,裁判官1名で裁判員4名の場合もあります。
 仕事については,まず,裁判官と一緒に刑事裁判の法廷に出席します。実際の審理日数は,事件ごとに異なりますが,審理はできる限り連続して行われ,多くは数日で終わると見込まれています。法廷では,証拠として提出された物や書類を取り調べたり,証人や被告人に対して質問などをします。次に,証拠をすべて調べて事実を認定し,被告人が有罪か無罪か,有罪であるならばどのような刑にするかなどを裁判官と一緒に議論(評議)し,決定(評決)をします。評決は,多数決により行われますが,その多数意見には,裁判官・裁判員のそれぞれ1人以上の賛成が必要です。この有罪か無罪か,及び有罪ならどのような刑にするかについての裁判員の意見は,裁判官と同様に扱われます。こうして評決の内容が決まると,裁判長が法廷で判決を宣告します。裁判員の仕事は,これで終わります。

8. 裁判員の義務は?

 裁判員に選ばれた人は,原則として,審理などが行われる期日には,裁判所へ出頭しなければなりません。そのために仕事を休むことは法律で認められており,これによって会社が解雇などの不利益な取り扱いをすることも法律上禁止されています。裁判員には日当や交通費が支払われます。また,裁判員は,評議の秘密や職務を行うことによって知り得た秘密を漏らしてはいけません。これに違反すると刑罰が科されます。

9. 裁判員になるのは不安?

 法律に関する知識や,刑事裁判の手続などについては,裁判官から丁寧に説明されますし,裁判官と裁判員がしっかりと話し合いをしながら評議を進めるので,専門的知識を持っていることは必要ありません。また,裁判員の氏名や住所はもちろん,評議のときにどんな意見を述べたかも公にはされませんし,裁判員やその親族に対して威迫行為をした者を処罰する規定もあり,裁判員の安全にも配慮されています。

10. おわりに

 裁判員に期待されるのは,各人の貴重な人生経験等に基づいて,例えば「こういう証拠があるということは,彼はこうするつもりだったのではないか」などというように,事実認定に関して率直に発言することです。現在,裁判員制度については色々なところで見聞できますし,現行の刑事裁判も原則として公開されていますので,参考までに,一度裁判所へ行って見学してみるのもよいのではないでしょうか。

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