新法令・判例紹介

 

新法令・判例紹介

下請代金支払遅延等防止法について

弁護士 水野 紀孝

平成21年08月17日 掲載

 平成17年,下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)が改正され,非製造業にまで適用範囲が拡大されました。しかし実際の取引では,下請法が十分に浸透しておらず,これに反する扱いがされることもしばしばです。そこで今回は,下請法の枠組みをご説明します。

下請法とは

 下請事業者は,製造業・非製造業ともに,主要取引先への売上依存度が非常に高いのが特徴です。そのため,主要取引先が優越的立場を利用し,下請事業者に無理に下請代金の値下げを迫るなどの行為がされることもあります。しかしこれでは,下請事業者の利益が保護されません。 下請法は,このような問題を解決するため,親事業者が下請事業者に対して優越的立場を濫用する行為を行なうことを規制し,下請事業者の利益を保護する法律です(どのような会社が下請法上の「親事業者」「下請事業者」にあたるかについては,こちらをご覧ください)。

以下で,現実によく問題になる事例をもとに,下請法の内容をご紹介します。


発注書面交付義務・取引記録保管義務 支払期日を定める義務
遅延利息を支払う義務 買いたたき
下請代金の減額 下請代金の減額
支払期日までの期間が長い手形での支払 不当な給付内容の変更
受領拒否・不当返品 有償支給原材料等の対価の早期決済
物の購入や役務の利用の強制・不当な経済上の利益の提供要請

親事業者に課される義務


親事業者が,いくらお願いしても書面での発注をしてくれません。以前にも発注の時の口約束通りには支払ってくれなかったことがあるので,心配です。どうすればいいでしょうか。


下請法上,親事業者は下請事業者に対し,発注内容に関する法定の事項を記載した書面を交付する義務があります(3条)。口頭の発注では,後日,下請代金等をめぐってトラブルになりかねませんので,取引内容を明確にするためです。なお,親事業者は,発注書面等の下請取引に関する記録を,少なくとも取引完了から2年間は保存しておかなくてはなりません(5条)。これらの義務に違反した場合には,親事業者に50万円以下の罰金が科されます。
以上のとおり,発注書面を交付することは親事業者の義務ですから,下請事業者は親事業者に対して,書面での発注を請求できます。



受注の際,親事業者が「うちも今苦しいんだ。余裕ができたら払うよ。」などと言って,支払日の約束をしてくれませんでした。支払日の取り決めがない以上,支払ってくれるまで待たなければいけませんか。


下請法上,親事業者は,下請事業者に発注する際,下請代金の支払期日を定めておかなくてはならず,しかも,支払期日は受領日後60日以内でなければなりません(2条の2第1項)。もし支払期日を定めておかなかった場合には,受領日が支払期日とみなされます。
今回の場合,親事業者は支払期日を明確に定めていませんから,納品日が支払期日とみなされます。従って,下請事業者は,納品後直ちに下請代金を請求できます。



下請法上,下請代金の支払が遅れた場合には,年14.6%の遅延損害金を支払わなくてはならないと聞きました。親事業者からの支払が遅れているのですが,契約書を見ると「遅延損害金の利率は年5%とする」と書かれてあります。このような場合,14.6%の遅延損害金を請求できないのでしょうか。


下請法上,親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合,遅延損害金の利率は年14.6パーセントとされています(4条の2)そして,これは民法や商法の規定,当事者の合意に優先して適用されますので,当事者間で遅延損害金を年14.6パーセント以下とする合意があった場合にも,強制的に年14.6パーセントの利率が適用されます。
従って,今回の場合も,下請業者は親事業者に対して,年14.6パーセントの利率の遅延損害金を請求できます。




原材料の価格が高騰し,従来の下請代金では到底採算が合わないので下請代金を引き上げて欲しいと伝えたのに,親事業者は「今までどおりの代金で十分でしょう」と言って協議にも応じてくれません。このような代金の決定方法は適法なのでしょうか。


下請法上,親事業者が,下請代金の額を決定する際,通常の対価に比べて著しく低い金額を一方的に決定すること(「買いたたき」)は禁止されています(4条1項5号)。
そして,従前どおりの下請代金を支払う場合であっても,下請事業者の事情も十分に考慮して協議を尽くさなければ,代金の決定方法は不当なものとなります。従って,価格を据え置く場合であっても「買いたたき」に該当し,違法となります。



親事業者から,ISOの認証を取得しなければ今後の発注を停止すると言われたため,多額の費用をかけてISOの認証を取得しました。それによってコストアップせざるを得なくなったのですが,親事業者は協議にろくに応じてくれません。このような代金の決定方法は適法なのでしょうか。


他の商品との差別化を図るためにも,下請事業者にISOの認証を取得させること自体は合理的な手段といえます。しかし,親事業者の要求によって下請事業者のコストアップが生じる場合には,親事業者は,このような事情を十分に考慮して協議を尽くして代金を決定しなければなりません。従って,このような場合も「買いたたき」に該当し,違法となります。



親事業者に対して,注文どおりに納品しました。しかし,親事業者は「うちも値切られちゃって大変なんだ」などと言って,代金の減額を求めてきました。応じなければなりませんか。


下請法上,親事業者が,下請事業者に責任がない事情を理由に,発注時に定められた請負代金を減額することは禁止されています(4条1項3号)。減額の名目や金額の多寡を問わず,また,下請事業者との合意があった場合であっても,下請法違反になります。
従って,親事業者の下請事業者に減額させる行為は違法ですので,応じる必要はありません(平成16年度から平成19年6月までに勧告・公表がされた事件は,全て減額に関するものですので,特に注意が必要です)。



私は親事業者です。下請事業者からの請求書が提出されるのが遅く,決済ができなかったため,下請代金の支払期限に間に合いませんでした。この場合でも,遅延損害金を支払わなければなりませんか?


親事業者は,下請事業者に対して,支払期日までに必ず下請代金を払わなければなりません(4条1項2号)。そして,支払期限を過ぎてしまった以上,理由の如何にかかわらず,遅延損害金を支払わなければならないとされています。
下請事業者からの請求書の提出が遅れている場合には,親事業者には,下請事業者に請求書の提出を催促する等の対応が必要です。



私は親事業者です。下請代金の支払に手形を使いたいと考えています。資金繰りの関係でなるべく支払期日を後にしたいのですが,支払期日はどのくらい先にしても大丈夫でしょうか。


下請法上,親事業者が,支払期日までの期間が長期の手形(繊維業は90日,その他の業種は120日を超える手形)で下請代金を支払うことは禁止されています(4条2項2号)。このような手形は,金融機関で割引を受けることが困難であり,下請事業者に大きな不利益を与えることになるからです。逆に言えば,この制限の範囲内の手形であれば,支払に使っても問題ありません。



親会社から部品をA仕様で作るようにとの注文があり,それに従って部品を作成していました。ところが,突然「やはりB仕様にしてくれ」と,注文の変更を求められ,既に作ってしまった部品については買い取ってくれません。親事業者には何も請求できないのでしょうか。


下請法上,親事業者が,発注元や親事業主の都合等,下請事業者に責任がない事情を理由にして発注の取消しや内容変更をし,その費用を下請事業者に負担させることは禁止されています(4条2項4号)。注文内容の変更等をする場合には,下請業者に対して,それによって生じる費用を支払わなければなりません。
従って,今回の場合も,下請事業者は親事業者に対して,注文変更によって生じた費用を請求することができます。



親会社の指示どおり部品を製造して納品しようとしたところ,「取引相手が倒産したから,もうその部品はいらない」と言われました。納品して下請代金を請求することはできないのでしょうか。


下請法上,親事業者が,発注元や親事業主の都合等,下請事業者に責任がない事情を理由にして,納期に受領しなかったり,納期を延期したりすることは禁止されています(4条1項1号)。発注した物品等を受領後に返品することも,同様に禁止されています(4条1項4号)。
従って,今回の場合も,下請事業者は部品を納品して下請代金を請求することができます。



当社では,親会社から原材料の提供を受けて部品の製造をしています。先日,親会社から原材料を受領すると同時に,親会社から「今すぐ原材料の代金を払ってくれ」と言われました。原材料を受け取る以上,代金を支払わなければなりませんか。


下請法上,親事業者が有償支給する原材料等の代金を請求できるのは,その原材料等から製造された物品の下請代金を支払った後でなければならないとされています(4条2項1号)。また,原材料等の代金を控除して下請代金を支払うことも禁止されています。
従って,下請事業者としては,下請代金の支払を受けるまで,原材料等の代金を支払う必要はありません。



親事業者から,「うちの系列会社の商品を使ってくれ」と,商品を購入するよう要求されました。要求に応じなければなりませんか。


下請法上,親事業者が,正当な理由なく,下請事業者に指定する商品やサービスを強制的に購入・利用させることは禁止されています(4条1項6号)。また,下請事業者に,「協力金」等の名目で現金を支出させたりサービスを提供させたりすることも禁止されています(4条1項3号)。
このように,親事業者が下請事業者に対して,商品等を購入させたりサービスを提供させたりすることは禁止されていますので,下請事業者は,一切応じる必要はありません。


1.罰金
親事業者が,発注書面を交付しなかった場合,取引書類を保管しなかった場合,行政庁の調査に応じなかった場合等には,50万円以下の罰金が科されます。


2.行政庁による勧告・公表
親事業者が,禁止行為のいずれかを行った場合には,公正取引委員会から親事業者に対して,違反行為をやめ,下請事業者の被った被害を回復するよう勧告がされます。この勧告が行われた場合には,親事業者の企業名と違反行為の内容が公表されますので,親事業者の信用は低下し,企業価値が大きく損なわれることになります。



・親事業者の方へ
親事業者と下請事業者のトラブルの主な原因は,あらかじめ発注内容について明確に定めないことと,親事業者が一方的に契約内容を定めてしまうことです。親事業者においては,これらの点を改善して,事前に契約に関する書類を作成し,契約内容についても下請事業者と十分に協議をすることが,下請法違反を避けるための最大の対処法といえます。

・下請事業者の方へ
親事業者の調査は,行政庁が書面調査や立入検査によって違反行為を発見するという方式をとり,行政庁に報告した者の名前等が明らかにされるわけではありません。下請事業者においては,自らの利益を保護するために,親事業者との関係悪化を過度に懸念することなく,行政庁に報告することが重要です。

・当事務所長の酒井俊皓は,中小企業庁の「下請かけこみ寺」事業の相談員,「地域巡回セミナー」事業の講師を務めております。他にも,当事務所には,日本弁護士連合会の下請法に関する特別研修を受講した弁護士が在籍しております。ご不明な点等ありましたら,お気軽にご相談ください。

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